[解説] 1.無保険車傷害保険の特徴 加害自動車が任意保険に加入していないため、被害者が加害者から損害賠償を受けることができない場合には、自分が加入している任意保険が定める無保険車傷害条項に基づいて、その保険金として損害賠償を受けることができます。これが無保険車傷害保険の特徴です。 近時の任意保険では、「無保険車事故傷害特約」とか、「無保険車傷害危険担保特約」とか、「無保険車傷害担保特約」とかの名称で、以前一般的に販売されていた「自家用自動車総合保険」(SAP)の無保険車傷害条項を特約の形で付帯させる商品が多いようです。あなたが加入している自動車保険にこの特約が含まれているかどうか、まず確認する必要があります。 2.被保険者 昭和51年1月、初めて無保険車傷害条項が任意保険の内容とされたときには、「被保険自動車の正規の乗車装置または当該装置のある室内に搭乗中の者」だけが被保険者とされていました。したがって、無保険自動車が加害車となり、搭乗者のいる被保険自動車が被害を受けるという形態での事故だけが保険の対象でした。被害を受けた人が保険に加入している自動車にそのとき乗っていなかった場合は、保険金は支払われませんでした。 昭和57年10月、SAPが新しい自動車保険として登場しました。そのSAPが担保する内容として、記名被保険者とその家族が歩行中あるいは他の自動車に搭乗中などの場合も含むことになりました。 この無保険車傷害条項では、被保険者の範囲が大きく広げられています。「被保険自動車の正規の乗車装置または当該装置のある室内に搭乗中の者」はもちろん含まれますが、それ以外でも、①記名被保険者(保険証券の賠償被保険者欄に記載されている者)、②記名被保険者の配偶者、③記名被保険者またはその配偶者の同居の親族、④記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子は、被保険自動車に搭乗中か否かにかかわらず、当然に被保険者になります。したがって、この①ないし④の人は、歩行中であっても、他の自動車に搭乗中であっても、保険の対象になります。 現在販売されている任意保険商品では、このSAPの無保険車傷害条項のように、被保険自動車に搭乗中でなくとも保険金支払の対象とする内容のものが多いので、あなたの契約している保険がこの種類のものであれば、加害者から賠償金の支払を受けることが困難であっても、自分の契約する任意保険から賠償金相当額を支払ってもらえる可能性があります。しかし、SAP登場以前の商品のように、被保険自動車搭乗中の場合のみを支払対象としている商品もありますので、任意保険の内容をまず確認してみるべきです。 3.保険金が支払われるための要件 歩行中の事故でも支払い対象となる任意保険だったとしても、無保険車傷害条項によって保険金が支払われるための要件としては次の二つが必要です。 |
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? 無保険自動車の所有・使用・管理のいずれかに起因して、被保険者の生命が害されること、あるいは身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じること。 ? 前記?によって受傷した被保険者またはその父母・配偶者(内縁を含む)・子が被る損害について賠償義務者があること。 |
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この二つの要件を満たせば、損害賠償を受けることができます。 被保険者である被害者が事故のときどのような場所にいても、保険による救済は行われることになります。 前記の要件の?にあるように、保険金が支払われるためには、加害自動車の側に法律上の損害賠償義務がなければなりません。無保険車傷害条項には、「賠償義務者がある場合にかぎり保険金を支払います」と書かれています。無保険自動車との事故であっても、無保険自動車側に損害賠償義務がない場合には、保険の対象とはならないのです。たとえば歩行者側に100%の落度があって自動車にぶつかってしまったような場合には、保険金の支払を受けることはできません。 4.加害自動車の自賠責保険との関係 被害者側の任意保険による無保険車傷害保険と、加害自動車側の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)との関係について説明しておきます。加害者が任意保険に入っていない場合でも、自賠責保険には加入しているはずですから、自動車事故については、その自賠責保険によって損害賠償金の支払を受けることができます。自賠責保険に加入していない場合でも、加害者に賠償能力がなければ、政府がその損害のてん補をします。被害者は無保険車傷害保険金の請求に先立って、まずこの自賠責保険等によって損害の賠償を受けることになります。この自賠責保険等によって支払われる金額よりも損害の額の方が大きい場合に、その超過額についてのみ無保険車傷害保険によって保険金が支払われます。加害者が任意保険に入っている場合であれば、その任意保険によっても不足する部分の損害についてのみ、無保険車傷害保険によって保険金が支払われるのです。 加害自動車に自賠責保険が付けられていなかったときは前記のとおり、政府に対し損害てん補の請求をしなければなりませんが、その場合その手続に時間がかかるときは、無保険車傷害保険金請求権の時効(2年間)の完成を防ぐため、保険会社との間で時効中断の承認手続などをしておく必要があります。 |