管理組合規約の違法な運用についての責任 
管理組合は専有部分の用途制限についてどこまで責任があるか 
▲セントラル経堂事件〔東京地判平成4・3・13判時1454号114頁〕 


事案の概要
 本件マンションは、昭和51年11月新築の10階建てである。1階および2階が店舗用、3階以上が住居用の建物であったが、分譲時の管理規約では住居部分を事務所として使用することを認めていたため、分譲直後から3階以上の住居部分の3室が会計事務所、大学教員研究室、芸能人事務所に使用されていた。
 Aは、昭和53年2月に本件マンション2階の店舗をA経営の会社名義で購入してレストラン営業を開始し、同年4月に本件マンション8階の専有部分(以下、「本件建物」という)をレストラン従業員の休憩用事務所兼倉庫とする目的で区分所有者Bから賃借し、その後事務所として使用してきた。そして、Aは、昭和63年7月に銀行から借金してBから本件建物を購入し毎月20万円を銀行に返済するようになったところ、本件建物の賃料収入で借入金を返済しようとして、平成元年3月15日、本件建物をM芸能プロダクションに住居兼事務所として月額賃料20万円で貸し渡した。
 管理組合は、平成元年3月12日管理組合総会で、管理規約を改正して(施行日は同年4月1日とされた)、新規約12条1項において「住居部分を事務所として使用する場合は組合の承認を受けなければならない」と定め、同時に「規約改正前にすでに占有者の使用目的が事務所となっている住居部分については、そのまま事務所として使用することを承認し、以後は事務所は増やさない方針とする」旨を決議した。Aの妻がAの代理人としてこの総会に出席し、同決議に賛同した。
 新規約施行後の平成元年7月、賃借人Mが退去したため、Aは、本件建物を事務所用にすべく費用85万円で改修工事を行い、同年9月コンピューターソフト開発会社(女性従業員2、3名でパソコン2台くらいを使用して営業している)Nに対し、賃貸目的を住居兼事務所として本件建物を貸し渡した。そしてAは、管理組合に対してその承認を求めた。
 しかし、管理組合理事会はその承認を拒絶した。そのためAは、やむなくNとの賃貸借契約を合意解約した。その後、Aは賃料を下げて住居用として賃借人を募集したが、結局賃借人は見つからず、借入金の返済に行き詰まり、平成3年5月本件建物をKに売却した。その際Aは、住居用に改装するための費用として100万円を売却代金から値引きした。
 事務所用として使用できるというAの既得権は保護されるべきであるのに管理組合はAの既得権を知りながらAとNの賃貸借契約を承認せずAの所有権を違法に侵害したとして、Aは管理組合に対し、Nとの賃貸借契約合意解除後の平成元年10月からKに売却した平成3年5月までの間の賃貸によって得べかりし賃料相当額388万3870円、権利金相当額40万円、改修工事費用額85万円を損害賠償として請求した。

●判決要旨

 Aの請求を全部認容した。
 「新規約12条1項は、区分所有者が住居部分を事務所に使用する場合には管理組合の承認を受けなければならない旨規定しているが、管理組合が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たっては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである。
 これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではない。しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の26条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する3階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとってその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところである。特に、Aは、今回の規約改正の10年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、2年余り前にはこれを購入し、右規約改正の1か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発効時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによるAの不利益は極めて大きいといわざるを得ない。しかも、賃借人であるNは、コンピューターソフトの開発を業とする会社で、従業員が2、3名という小規模な会社にすぎず、その入居を認めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであって、事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたい。
 右の双方の利害状況を比較考量すれば、(管理組合の)承認拒絶によりAが受ける不利益は専有部分の所有権者であるAにとって受忍限度を越えるものと認められるから、管理組合は、本件賃貸借契約を承認する義務を負っていたものと解するのが相当である。したがって、管理組合は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、Aの所有権を違法に侵害したものと認められる」。

●解 説
 区分所有法(以下、「法」という)は、区分所有者が全員で、建物並びにその敷地および附属施設の管理を行うために、規約を定めることができるとしている(法3条)。規約で定めることができるのは、建物またはその敷地もしくは附属施設の管理または使用に関する区分所有者相互間の事項であり(法30条)、専有部分の使用方法の制限も、建物全体の維持管理または共同生活上の秩序維持の要請に基づくものである限り、原則として有効とされる。
 規約による建物の使用方法に関する行為の制限ないし禁止は、絶対的禁止事項と相対的禁止事項とに区別することができる。区分所有者の共同の利益に反する行為は、規約をまつまでもなく法6条によって禁止されているが、実際には、規約で具体的に禁止事項を列挙する必要がある。また、同条の共同の利益に反する行為には該当しなくとも、規約で建物等の使用方法に関して一定の行為を禁止し、制限することは可能である。同条によって禁止されている行為を具体的に規約で明らかにしたものが絶対的禁止事項であり、同条の共同の利益に反する行為とまではいえないが、規約で特に禁止した事項が相対的禁止事項である(新マンション294頁)。
 本件マンションの管理規約12条1項に定められた「住居部分を事務所として使用する場合には、管理組合の承認を受けなければならない」との用途制限規定は、上記の相対的禁止事項にあたる。しかし、管理組合に認められたこの承認の権限は、区分所有者の専有部分についての所有権行使の可否を決する重大なものであるから、理由のない承認拒絶は社会的相当の範囲を超えた所有権侵害として違法となる場合があるのは避けられないところである。
 そこで本判決は、一方において本件改正規定の原則的有効性を認め、他方において管理組合が承認を与えるべきであるか否かは、「事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである」との基準を示した。そして、この基準に照らして、本件の場合「管理組合は、本件賃貸借契約を承認する義務を負っていたものと解するのが相当である。したがって、管理組合は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、Aの所有権を違法に侵害したものと認められる」としたのであった。そして同判決は、管理組合がこのような違法の規約運用をした場合、管理組合はそれによって当該区分所有者が被った全部の損害について賠償の責任を負うと判断したのである。
(中島繁樹)