漏水事故と管理組合の責任 
共用部分の欠陥による漏水について、管理組合は責任を負わなければならないか 
▲シャンボール第二西公園事件〔福岡高判平成12・12・27判タ1085号257頁〕 



●事案の概要
 シャンボール第二西公園は、築15年の9階建て(部分的に10階建て)マンションである。このマンションで平成7年と平成8年に立て続けに5件の漏水があった。
 平成7年5月に、屋上に接する庇の上にある排水管にごみがつまり、そのため庇の上に雨水が溜まった。溜まりすぎた雨水が通気管を通って建物内に浸入し、最上階の9階にある903号室に流れた(屋上排水管事故)。また同年10月以降において、屋上および外壁のクラックから雨水が浸入して同室の壁に水滴が断続的に生じた(クラック事故)。
 次に平成8年1月に、5階の503号室の玄関そば廊下の床の板張りのすぐ下のところで、排水管が亀裂してしまった。そのため、漏水した水が下の階の303号室に流れた(床板下排水管事故)。
 さらに平成8年8月には、台風による集中豪雨があり、飛んできた葉っぱ等のごみが903号室のバルコニーの排水口を塞いで、そのためバルコニーに雨水が溜まった。溢れるほどに雨水が溜まったバルコニーの水は、同室に浸入した。また同じ日に、403号室のバルコニーにも同様に雨水が溜まった。この部屋には人が住んでいなかった。そのバルコニーの水は同室に浸入し、その水が下の階の303号室に流れた。
 以上の漏水事故で被害を受けたのは、903号室の区分所有者Aと同室賃借人の妻B、303号室の区分所有者Cとその妻Dであった。この4人が、管理組合を相手として、総額3206万円の損害賠償を求めて訴えを起こした。
 1審の福岡地方裁判所は、一般論として、「管理組合は、その組織、理事の存在、総会の運営方法等に照らして、権利能力なき社団と解される。権利能力なき社団にも不法行為責任を認めうることは多言を要しない。共用部分については、本来最終的な管理責任を負う本件マンションの区分所有者により構成された管理組合が、管理権限を有するのみならず、その責任と負担において管理を行うこととされている(本件管理規約)。したがって、管理組合が共用部分を管理すべき義務を負う以上、その義務違反が不法行為又は債務不履行責任を構成する可能性がある」と述べたうえで、本件管理組合の具体的な作為義務違反はなかったとして、被害者らの請求をすべて棄却した。これに対して、被害者らが控訴した。

●判決要旨

 原判決を一部変更し、Bについての損害の賠償として56万8000円を認容した。
 屋上排水管事故(第1事故)については次のように判断した。
 「第1事故の約3年前である平成4年4月28日に屋上排水ドレーンにゴミ(鳥が運んできたわら等)がたまって排水できず、低位置にあった通気孔から903号室に水漏れが生じ、さらに803号室まで水漏れが生じたという事故があり、その際管理組合と被害者2名(うち1名はAである)との間で示談書が交わされ、(施設所有者賠償責任保険により)管理組合に対し損害保険金が支払われたことが認められること、ゴミがたまって屋上排水ドレーンが詰まるのを防ぐための措置をとることが著しく困難であるとは考え難いこと(毎月の掃除のほか、排水口に大きめの椀型の網の蓋をかぶせ、また通気孔を高くする方法等が考えられ、現に平成9年2月に同様の改修工事が行われた。)などにかんがみると、管理組合は屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故の結果を予見してこれを回避することが可能であり、そうすべき義務があったというべきであり、これを怠った過失を認めることができる。また、右は工作物の設置又は保存の瑕疵に該当するというべきである。したがって、屋上排水ドレーンを管理していた管理組合は右瑕疵によって損害を蒙った者に対し管理規約に基づく責任あるいは工作物の不法行為責任を免れない(民法717条1項)」。
 また、クラック事故については次のように判断した。「管理規約8条によれば屋上、外壁は共用部分であるから、……管理組合がその管理義務を怠った場合には管理規約による管理責任が認められる余地がある。また、屋上等のクラックから雨水等が浸入するのは、本件マンションが通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、工作物の保存に瑕疵(民法717条1項)があったというべきであるから、工作物責任も免れないことになる」。
 床板下排水管事故(第3事故)については次のように判断した。
 「床下排水管は床スラブ内に存する部分は共用部分であるが、床とスラブとの間の空間に存する部分は区分所有者の専有部分であると解するのが相当であり、第3事故の原因となった排水管は床下空間部分に存したものであるから共用部分とは認められない」。「したがって、この排水管の管理責任は503号室の区分所有者が負うべきであるから、管理組合は、この事故についても不法行為責任及び債務不履行責任を負わない」。
 バルコニー事故については、1審の判断をそのまま是認して、次のように判断した。「本件事故は、バルコニー排水口からの雨水の排水という、バルコニーの通常の使用過程で生じた事故であって、その雨水が台風の直撃によるものであり、木の葉が台風により飛来したものと推定されることを考慮しても、バルコニーの使用自体の性格としては、通常の使用と異なることにはならないといわざるをえない。してみれば、この事故は、通常の使用に伴って生じたものというべきであり、その管理は、各室の専用使用権を有する者が責任をもって行うものというべきである」。

●解 説

 通常マンションの漏水事故でまず責任を追及されるのは、その漏水の原因をつくった個人である。これは民法709条の定める不法行為責任の法理による。また、共用部分に漏水の原因があった場合であれば、その共用部分の共有者である区分所有者全員が過失のあるなしにかかわらず最終的な責任を負う。これもまた、民法717条の定める土地の工作物責任の法理の帰結である。しかし、本件の被害者らは区分所有者全員を被告にするという方法をとらず、また5階の床板下排水管の所有者を被告にするという方法もとらず、管理組合を被告に選んだ。漏水の原因をつくった個人でもなく、区分所有者本人でもない管理組合が賠償責任を追及される理由はどこにあるのか。これが本件訴訟で問題とされた。
 本件の福岡高裁判決は、結論として「管理組合は管理規約に基づく責任あるいは工作物の不法行為責任がある」とする。
 管理組合と区分所有者の関係について、同判決はこのように述べている。「管理組合は、建物の区分所有等に関する法律3条に基づき区分所有の目的とする建物並びにその敷地等の管理のために区分所有者全員をもって構成するものとされ(管理規約6条)、敷地及び共用部分等の管理をその責任と負担において行うものとされている(同23条本文)のであるから、管理組合において管理すべき共用部分に起因して個々の区分所有者に損害が発生した場合、その区分所有者の責に帰すべき事情がない限り、その損害が最終的には全区分所有者間でその持分に応じて分担されるとしても、先ずは管理規約に基づいて管理組合に対して請求できると解するのが相当である」。
 さらに管理組合と第三者の関係について、同判決は、屋上排水管事故について、「管理組合は屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故の結果を予見してこれを回避することが可能であり、そうすべき義務があったというべきであり、これを怠った過失を認めることができる。また、右は工作物の設置又は保存の瑕疵に該当するというべきである」と述べ、またクラック事故について、「管理組合が屋上、外壁の管理義務を怠った場合には管理責任が認められる余地がある。また、屋上等のクラックから雨水等が浸入するのは、本件マンションが通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、工作物の保存に瑕疵があったというべきである」と述べている。その意味するところは、管理組合に当該共用部分について管理責任が認められるような場合には、管理組合は民法717条1項にいう占有者として不法行為責任を負うという趣旨であると考えられる。
 そして、他方、バルコニー事故については、管理規約23条に「敷地および共用部分の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。但し、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない」と規定していることを根拠として、通常の使用に伴う事故については管理組合は管理責任のある立場ではなく、専用使用権を有する者が占有者として工作物の設置または保存の瑕疵につき責任を負うと解されたものである。
 なお、床板下排水管事故は本件マンション503号室の専有部分に起因する事故であるから、管理組合が所有者または占有者として工作物責任を問われる余地はない。
(中島繁樹)