管理組合理事長を解任する方法 
理事の互選によって選任された理事長について、理事長を解任するときはどのような方式が必要か 
▲福岡久留米マンション事件〔最判平成29・12・18判時2371号40頁・判タ1448号56頁〕 

●事案の概要

 本件マンションは福岡県久留米市に所在する。建物の竣工は平成24年8月。管理組合Aは平成25年1月の創立総会において発足し、理事9名が選任された。同年3月の理事会で初代理事長Bが互選により選任された。この頃から理事会内では、管理を委任する先の管理会社の選定問題で、理事長Bとその他の理事との間で意見の対立があった。
 同年8月の通常総会で5名の理事が追加選任され、同年10月に理事長を改選するための理事会(理事数14名)を開催しようとしたところ、Bはその理事会を突然理由もなく欠席した。そこで出席した理事だけで理事会が開かれ、この理事会は、Bの理事長職を解任し(Bは普通の理事になった)、さらに理事の中からCを第2代の理事長に選任した。
 Bは、この理事長解任について無効を主張した。Bは、Cが翌年7月に招集した臨時総会における決議も無効であると主張した。Bは翌年10月、管理組合Aを被告として福岡地方裁判所久留米支部へ総会決議無効確認請求の訴えを提起した。
 第一審は、理事長職の解任は総会が決めるべきだとして、理事会が互選でBの理事長職の解任を決めたことを無効であるとした。Aの控訴に対する第二審の判断も、第一審と同様であった。そのためAが上告受理の申立をした。


●判決要旨

「理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては、理事の互選により選任された理事長につき、同規約に基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる、と解するのが相当である。」


●解 説

 マンション管理の実務においては、複数の理事を置くマンションでは、理事長職の理事互選方式が一般的である。国土交通省が標準的モデルとして提示した標準管理規約(平成23年7月27日版)では、「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する」(35条3項)と定めていた。今日では全国のマンションの約9割がこの標準管理規約と同様の規約を有していると言われている。本件マンションの管理規約40条3項の「理事長、副理事長、会計担当理事および書記担当理事は、理事の互選により選任する。」との規定は、上記の標準管理規約(平成23年7月策定)35条3項と同一趣旨である。そして、この規定は、区分所有法495項が「理事が数人あるときは、規約の定めに基づき理事の互選によって管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。」とするのと同一の趣旨である。
 付言すれば、国土交通省は平成28年3月14日、この標準管理規約の改定をしている。そのため現在では、同条同項は「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事のうちから、理事会で選任する。」となっている。
 理事が数人いてその中から代表者を定めようとするときは、その理事の互選によって簡易に理事長職にあたる者を選任し又は解任できるようにすることは、組合員数がさほど多くなく、理事長に特別の権限がほとんど与えられていないという実情に、もっともよく適合する。

 そのような事情のもとで、「互選により選任」との規定は当初の選任のみならず解任も含むとするのが、学説の理解であり実務の慣行でもある。この点について区分所有法49条5項の解釈としてコンメンタールマンション区分所有法第3版289頁は、「解任決議については、理事会における理事の決議によって理事長に選任されたのであるから、理事からの信頼を失ったこと等による代表理事の職の解任についても、同様に理事会の決議によるべきである。」としていた。

 以上のような通説に反して、互選による解任はできないとしたのが、原審福岡高裁の判決であった。その判決は、「理事長、副理事長、会計担当理事および書記担当理事は、理事の互選により選任するとの役員互選の規定は、理事長という役職の選任は理事会の決議で行なうとの意味であり、一旦選任された役員を理事会決議で解任することは予定されていないものと解される。したがって、一審原告の役職を理事長から単なる理事に変更すことを内容とする理事会決議は無効であり、これと一体としてされた新理事長の選任の決議も無効である。」とした。
 この原審判決を全国の実務の慣行に合わせて是正したのが、掲記の最高裁判決である。
 この訴訟の経緯及び最高裁判決から次のような教訓が得られる。

1.マンション理事会は、互選で多数決によって理事長を選任することができるし、また同じく理事会の多数決で解任することができる。このような実務の理解が正当であることが、最高裁判決で確認された。

2.理事会で理事長を解任する場合その人が欠席していてもかまわないが、その理事会の開催及び議題については、その人が事前に通知を受けていたことが必要であるので、その通知の事実を記録として残しておかねばならない。

3.理事長を互選で選任する時期は、総会で新理事が選任されたとき間を置かず、すぐに新理事会を開いて、新理事長を互選で選ぶというやり方が適当である。できれば新理事が選任された総会の直後に新理事長を選ぶべきである。そうすると、前理事長を解任するという問題は起こりようがなくなる。

(中島繁樹)