●事案の概要 本件マンションは福岡県久留米市に所在する。建物の竣工は平成24年8月。管理組合Aは平成25年1月の創立総会において発足し、理事9名が選任された。同年3月の理事会で初代理事長Bが互選により選任された。この頃から理事会内では、管理を委任する先の管理会社の選定問題で、理事長Bとその他の理事との間で意見の対立があった。
「理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては、理事の互選により選任された理事長につき、同規約に基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる、と解するのが相当である。」
マンション管理の実務においては、複数の理事を置くマンションでは、理事長職の理事互選方式が一般的である。国土交通省が標準的モデルとして提示した標準管理規約(平成23年7月27日版)では、「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する」(35条3項)と定めていた。今日では全国のマンションの約9割がこの標準管理規約と同様の規約を有していると言われている。本件マンションの管理規約40条3項の「理事長、副理事長、会計担当理事および書記担当理事は、理事の互選により選任する。」との規定は、上記の標準管理規約(平成23年7月策定)35条3項と同一趣旨である。そして、この規定は、区分所有法49条5項が「理事が数人あるときは、規約の定めに基づき理事の互選によって管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。」とするのと同一の趣旨である。 そのような事情のもとで、「互選により選任」との規定は当初の選任のみならず解任も含むとするのが、学説の理解であり実務の慣行でもある。この点について区分所有法49条5項の解釈としてコンメンタールマンション区分所有法第3版289頁は、「解任決議については、理事会における理事の決議によって理事長に選任されたのであるから、理事からの信頼を失ったこと等による代表理事の職の解任についても、同様に理事会の決議によるべきである。」としていた。 以上のような通説に反して、互選による解任はできないとしたのが、原審福岡高裁の判決であった。その判決は、「理事長、副理事長、会計担当理事および書記担当理事は、理事の互選により選任するとの役員互選の規定は、理事長という役職の選任は理事会の決議で行なうとの意味であり、一旦選任された役員を理事会決議で解任することは予定されていないものと解される。したがって、一審原告の役職を理事長から単なる理事に変更すことを内容とする理事会決議は無効であり、これと一体としてされた新理事長の選任の決議も無効である。」とした。 1.マンション理事会は、互選で多数決によって理事長を選任することができるし、また同じく理事会の多数決で解任することができる。このような実務の理解が正当であることが、最高裁判決で確認された。 2.理事会で理事長を解任する場合その人が欠席していてもかまわないが、その理事会の開催及び議題については、その人が事前に通知を受けていたことが必要であるので、その通知の事実を記録として残しておかねばならない。 3.理事長を互選で選任する時期は、総会で新理事が選任されたとき間を置かず、すぐに新理事会を開いて、新理事長を互選で選ぶというやり方が適当である。できれば新理事が選任された総会の直後に新理事長を選ぶべきである。そうすると、前理事長を解任するという問題は起こりようがなくなる。 (中島繁樹) |