第8 財務

 

26  区分所有者本人が支払わない管理費を賃借人に請求できますか。

 

1.管理費の支払義務者

    区分所有者が管理組合に対して管理費や修繕積立金の支払義務を負うのは、区分所有者自身が共用部分の共有者として、共用部分の管理の費用を負担する義務があるからです(法19条)。        したがって、共有者ではない賃借人には、管理費や修繕積立金の支払義務はありません。

    区分所有法46条2項は、賃借人に対して規約の遵守義務を課していますが、同項が遵守義務を課す範囲は「建物等の使用方法」に限定されています。したがって、仮に規約で賃借人に区分所有者と同様の管理費支払義務を定めたとしても、金銭支払義務は使用方法の義務ではありませんから、賃借人を拘束することはできないのです。

    管理組合としては、賃借人が賃貸人に支払う家賃の中から未払の管理費を回収したいと考えることがあります。その場合、管理組合は、まず賃貸人に対し、管理費等の支払を命ずる判決または支払督促を取得し、それによって賃料債権を差し押さえるという方法をとるのがふつうです。但し、あとひとつ、判決や支払督促の取得をせずに、先取特権(法7条、民法304条)に基づいて直ちに賃料債権を差し押さえるという方法もありますが、この方法をとるときは、その賃借人に対して事前に十分の説明をしておくことが必要でしょう。

 

  2.賃借人の誓約書

    マンションにおける管理実務では、規約において区分所有者に対し、賃貸借契約したことを管理組合へ届け出るよう求め、同時に賃借人にも管理組合に対する誓約書の提出義務を課すことがあります。

    この誓約書の文言の中に、賃借人と管理組合との間に債権関係が発生するよう工夫する例が見られます。たとえば、同誓約書の中の「私は、本マンション〇〇〇号室の賃貸借契約締結に際し、管理規約、使用細則及び総会決定事項等を誠実に遵守することを誓約します。」という文言に続けて、「区分所有者が支払うべき管理費等が滞納されたときは、私が支払うべき家賃から滞納管理費等を優先的に支払うことに同意します。」との文言を入れるというやり方です。

    これがあれば、前述の先取特権にもとづく賃料債権の差押えは、かなり実効性があると思われます。

 

 
 

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