第9 請負工事契約

 

Q33  マンション建物について工事請負契約をするときは、どうしても総会の承認決議が必要なのですか。

 

1.総会の承認決議

    管理組合が大規模修繕工事をするにあたっては、もちろん工事会社との間で工事請負契約を締結することになりますが、この場合、組合総会の承認は契約が成立するための必要条件になる、と考えられています。

 区分所有法17条によれば、大規模修繕工事の請負契約をするには、組合総会で過半数の賛成を得なければなりません。この規定との関係では、総会での過半数の賛成がない限り、工事請負契約自体が締結できないことになるのです。そうしますと、この承認決議がないまま工事が進行し、工事終了後に組合総会が請負契約締結を否決してしまったときには、工事代金の支払いができないことになるのです。

    令和元年から同2年にかけて福岡市内の本件マンションでこのような問題が起きました。大規模修繕工事の当初の本体工事については組合総会で承認決議がありましたが、のちの追加変更工事については現実には当初工事と同時に進行し、けっきょく当初工事及び追加変更工事の全部が終了した後に、組合総会でこの追加変更工事契約が否決される、ということがあったのです。この事案についての裁判結果を以下に報告します。

 

2.追加工事の契約ができなかった事情

    組合法人の総会は平成31年2月2日に大規模修繕工事をすることを承認しました。そして同年3月30日の総会で、工事代金を5173万円とする工事請負契約を締結することを承認しました。

    この契約書には、その第8条に次のような規定がありました。

<第8条(請負代金の変更)>「契約締結後に仕様変更その他に伴って請負代金額の変更があるとき、また、工期内に租税、物価、賃金等の常識を超える大幅な変動により請負代金額が明らかに不適当であると認められるにいたったときは、当事者は相手方に請負代金額の変更を求めることができる。この場合、管理組合、工事会社は、速やかに工事請負変更契約書を締結しなければならない。」

    その年(5月から令和元年になった年)の5月15日に、当初の工事が始まりました。このときの当初工事の予定の工期は9月30日まででした。この工事と並行して、当時の理事長と副理事長は工事会社との間で、当初工事に対する追加と変更の工事について協議を始めました。多くの組合員から要望があったからです。

  工事会社は同年7月31日、理事会に追加変更工事について見積書(第2回目)を提出しました。その後、工事会社は組合総会の承認がないまま、事実上この追加変更工事を実施しました。工事中の本件建物の外側には多額の費用をかけて足場が組まれていましたが、追加変更工事を行なうについてもこの足場を使う必要があり、この足場が組まれている予定の期間は、当初工事の期間に限られるはずだったのです。

    当初工事の代金はその全額が11月29日まで支払われました。同年12月末ころに追加変更工事は終了しました。翌年(令和2年)2月17日、工事会社は当初工事もすでに完了したと主張し、未払のままになっている追加変更工事の代金(見積書によれば935万円)の支払いを組合に対して求めたのです。しかし、同年3月26日の組合の通常総会は、追加変更工事の請負契約をすること自体について、否決したのでした。

 

3.判決

    令和4年5月10日の福岡地方裁判所は、次のように述べて、管理組合に対し935万円の支払いを命じました。

 「工事会社から組合理事長あてに工事代金見積書が提出され、その内容を理事会が検討し、少なくとも理事会において代金額を850万円とすることを承認していたことがうかがわれるような事情のもとで、見積書案が組合総会へ承認案件として上程された場合においては、組合代表者は工事会社から提案された見積額につき、同額をもって請負工事の代金額とすることを承諾したものと認めるのが相当である。」

 「組合法人の代表権を有する理事長が請負代金額に係る意思表示をしている以上は、総会で請負工事契約の承認が否決されたとしても、それは組合内の内部的な意思決定を欠くにとどまるものであり、組合代表者の代金額承諾の意思表示は有効である。」と言うのです。

 これに対し管理組合は不服であるとして控訴しました。控訴審の福岡高等裁判所は、令和4年11月10日に次のように述べて、一審とは逆の結論を示したのでした。

「理事長は組合の代表者として、本件追加変更工事の代金額を850万円(税別)として請負契約を締結することについて承諾したと認めるのが相当であり、工事会社から見積額の提示を受けたにとどまるということはできない。

    しかしながら、本件追加変更工事に係る請負契約は、本件工事含まれない工事を多数含んでいることが認められるから、本件工事の一部と捉えることはできず、本件工事とは別の工事であって、その内容からして「管理共用物の処分又は変更に係る方針の決定」(管理規約30条(7))に該当する。したがって、組合総会の承認決議を得る必要があるところ、通常総会において否決されたのであるから、理事長の上記代表行為の効力は原則として生じないというべきである。

    ただし、それを善意の第三者に対抗することはできないと解されるところ(建物の区分所有等に関する法律49条の2参照)、本件の場合、組合は、本件工事の見積額合計4790万円について総会の承認決議を得たものであったこと、及び本件追加変更工事の金額も850万円と高額に上っていることに照らせば、工事会社は、理事長から本件追加変更工事に係る請負契約締結の承諾を得た時点で、総会の承認決議が必要であるが未だ決議を得ていないことについて知っていたと認めるのが相当であって、組合と工事会社との間で本件追加変更工事に係る請負契約が成立したということはできない。」と判断したのです。

 

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