第9 工事請負契約 Q35 組合総会の承認が得られないまま施工された請負工事の代金のその支払義務はどうなるのでしょうか。 1.総会の不承認の効果 区分所有法17条で求められている総会の承認決議がなかったことによって工事請負契約が不成立又は無効となる場合、工事業者はすんでしまっている工事の代金をどのような理由で管理組合に対して請求することができるのでしょうか。 この点についてQ33で紹介した福岡高等裁判所判決は、「原審において実施された鑑定結果が本件追加変更工事の実勢価格を〇〇〇万円と判断しており、同金額では何らかの形で組合に支払義務が発生する蓋然性が高い。」と言うだけで、支払義務の根拠をはっきりとは言っておりません。 ここで言われている支払義務の根拠としては、以下の3点が考えられます。 2,不当利得返還義務 組合が事実上の請負工事の結果として工事完成の利益を受けたのであれば、組合がその利益を享受したままにすることは、公平の理念に反します。 民法703条が定める不当利得の返還義務は、このような場合に適用されると考えられるのです。 法律上の原因なくして、他人の財産又は義務によって利益を受け、そのために工事会社に損失を及ぼした管理組合は、その利益の存する限度においては、この利得を返還する義務を負うのです。上記福岡高等裁判所の判決が言いたかったのは、その支払義務だったのではないか、と思われます。 3.商法512条にもとづく報酬支払義務 商法512条は、商人の報酬請求権を定めています。商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる、とされているのです。工事会社はここでいう商人にあたりますので、工事会社はその施工した工事について相当額の報酬を組合に請求することができます。組合側から言えば、組合は工事会社に対して相当額の報酬の支払い義務があるということになります。 基本的にこの理屈は本件の事案において成立しそうですが、現実的にはここでいう相当額の金額はかなり低額になってしまうのではないかとも思われます。 4.契約締結段階での過失による損害賠償義務 組合が総会で承認を得ない状態で、いずれはその承認決議を得ることが確実であると工事会社に信用させてその工事を先行施工させたときには、組合には契約締結段階で工事会社に不測の経済的出捐を被らせたという不法行為責任がある、と考えられます。組合はその工事会社の損害を賠償しなければなりません。 |
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