第11 不良入居者対策

 

Q42  不良入居者を相手として裁判をする場合において事前の組合総会ではどのような準備をすることになりますか。

 

1.総会の招集

    まずは管理組合理事会において総会を開催すること、及びその議案の内容を確定しなければなりません。具体的な管理組合総会の日時と場所、請求する相手方の特定、請求を訴えの方法で行うこと、具体的な請求の内容、理事長等への訴訟追行権の付与、訴訟費用の出捐などの事項について議案を決めるのです。

    総会の招集通知には、上記の事項を議案として具体的に明示する必要があります。また招集通知には、上記事項以外に、請求の原因となる違反事項も、その議案の提案理由として具体的に示しておかなければなりません。

    欠席者に提出を求める委任状にも、上記事項を明示して、委任の範囲を明確にしておくべきです。

 

  2.弁明の機会の付与

    解除・引渡請求のための総会決議をする場合は、占有者にあらかじめ、弁明の機会を与えなければなりません(区分所有法60条2項・58条3項)。

    この趣旨は、占有者の利益を剥奪することを決議するという重大性に鑑みて、決議前に特定の利害関係人である占有者に弁明の機会を付与することを決議の要件としたものです。これは総会を主催する管理組合の義務規定である、と解釈されています。占有者が管理組合に対し総会に出席して弁明の機会を求めることができるという権利ではない、と解されています。

    この弁明の機会の付与の方法について具体的な規定はありませんので、理事の1人が事前に聴取してその結果を総会に提示することでも足りると考えられますが、ふつうは総会に呼び出して弁明させることが多いようです。

    さらに、総会で弁明の機会を与えるべく占有者を呼出しても、これに応じない場合も多く、この場合には「事前に弁明の機会を付与した」ことを証明するために、呼出状に、招集通知に準じて、特に、使用禁止または解除および引渡請求の根拠となる具体的な違反事実を記載して、いかなる点に弁明を求めるのかを明示して、「弁明されたく、総会に出席してください」等の旨を付記して内容証明郵便で送付するのが適当です。

 

  3.意見陳述権

    占有者は、総会の目的たる事項に利害関係を有する場合は、総会に出席して意見を述べることができるとされ(法44条1項)、総会への出席権および意見陳述権が認められています。

    この権利を保障するために、招集件者は通知発送後遅滞なく、招集通知に記載した内容と同じ事項を建物内に掲示することが義務づけられています(法44条2項)。ただし、この区分所有法44条の占有者の意見陳述権は、特に問題となる法60条の解除引渡請求においてそもそも適用がなく、占有者の防御は弁明の機会の付与(法60条2項)やその決議によってなされる訴訟手続内で行使すれば足りるという否定意見があります、(濱崎恭生『建物区分所有法の改正』280頁)。

 

  4.区分所有者の意見陳述権と弁明の機会の付与の関係

    不良入居者本人が区分所有者であるときは当然、区分所有者として、招集通知を受け、総会に出席して意見陳述をすることができます。

    法によれば、使用禁止請求または競売請求の決議の場合には、事前に本人弁明の機会の付与をすべきであるとされており(法58条3項・59条2項)、占有者における意見陳述権と弁明の機会の付与と同様の問題がありますが、結論としては、区分所有者に対しても、個別に弁明の機会を付与すべきです。

    この場合、区分所有者一般としての招集通知と特定の区分所有者に対する弁明の機会の付与のための呼出とを峻別できればよく、区分所有者への招集通知書と別に弁明のための呼出状等の送付まで必要であるとは解されないので、1通の文書に、招集通知に関する事項を記載した後に「貴殿には、右総会に出席されて本議案にかかる貴殿の前記(違反)行為につき弁明をされたい」等の機会の付与に関する記載をして、当該区分所有者に送付するのでも足りる、と考えられます。

 

  5.特別決議

    区分所有者に対する使用禁止請求または競売請求、占有者たる賃借人に対する賃貸借契約等の解除請求および引渡請求をするための決議は、いずれも、区分所有者および議決権の各4分の3の特別決議が必要です(法58条2項・59条2項・60条2項)。

    議決権は、規約に定められている場合は規約により、そうでない場合は専有部分の床面積の割合によります(法38条・14条)。

    なお、共同利益の侵害者であっても、その区分所有者の議決権が制限されるということはありません。

 
 

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